額をつけあうと、ひんやりと冷たかった。
わたしそっくりの顔が、そこにあった。同じ眉の角度、同じ目尻のほくろ、唇の左がわが少しだけ薄いところまで。けれど、表情だけがちがった。わたしが微笑むと、その人は微笑まなかった。わたしが悲しいとき、その人は悲しんでいなかった。
「あなたは誰?」
声に出してみたけれど、答えはなかった。ただ、わたしの吐いた息だけが、ふたりのあいだで白くにじんで消えた。
子どものころ、母はよく言った。あなたは鏡を見すぎる、と。たしかにわたしは、自分の顔を見ているのが好きだった。けれどあるときから、鏡のなかの顔が、わたしより少しだけ遅れて笑うようになった。コンマ何秒の、ほんのわずかなずれ。そのずれが、だんだん大きくなっていった。
いまでは、もう何も伝わらない。
額をつけたまま、わたしはその人の目をのぞきこむ。黒い瞳のおくに、わたしの顔がうつっている。その顔のおくに、また小さな顔がある。どこまでも、どこまでも、似た顔がつづいていく。けれど、そのどれもが、わたしではなかった。
似ているということは、こんなにも遠いことなのか。
血のつながった双子でもなく、生き別れた片割れでもない。ただ、たまたま顔のかたちが同じだっただけの、まったくの他人。同じ顔をしているのに、この人の見てきたものを、わたしは何ひとつ知らない。この人がいつ泣いて、いつ眠れない夜を過ごしたのか。何も。
ふいに、その人が口をひらいた。
「あなたは誰?」
まったく同じ問いだった。けれど、その声には、わたしの知らない疲れがにじんでいた。わたしたちは、ずっと同じ問いを、別々の場所で抱えてきたのかもしれない。
わたしは額を離した。冷たかったところに、ぬるい空気がながれこむ。
ガラスのむこうで、その人もまた、ゆっくりと遠ざかっていった。最後まで、ふたりの表情は、ひとつも重ならなかった。